日本人の肝がんの約60%はC型肝炎が原因とされるなか1)、近年、国を挙げてウイルス性肝炎の進展を予防する対策が講じられています。その一環として、肝炎の患者さんが適切な治療を受けられるように医療機関への受診を勧めたり、肝炎に関する相談などの支援を行う肝炎専門の相談員(コーディネーター)の育成が各地域において行われています。
そこで、肝炎に対して悩みや疑問をお持ちの方のために、さまざまな相談に乗っている肝炎コーディネーターについて2回に分けて、ご紹介いたします。
1回目のご紹介は、埼玉医科大学 消化器内科・肝臓内科 教授 持田智先生と、同病院で肝炎コーディネーターとして勤務されている飯塚綾子さんです。
1)工藤正俊他. 肝臓51(8): 460-484, 2010
勇気をもって
一歩踏み出して
埼玉医科大学病院 肝疾患相談センター
肝炎コーディネーター
飯塚 綾子さん
肝炎について、どのような方からのご相談も承っています
「肝炎コーディネーター」の仕事について教えてください。
肝炎の患者さんやご家族から相談を受け付け、内容に応じた情報提供や支援を行っています。
どうすれば肝炎コーディネーターに相談できるのでしょうか。
埼玉医科大学病院内に設置されている肝臓病相談センターでは、主に電話による相談を受け付けています。平日朝9時~17時、土曜日も朝9時~12時まで電話を受け付けています。電話をいただくにあたって特別な手続きは必要ありません。また、当院の消化器内科・肝臓内科の外来患者さんには、必要に応じて対面相談をすることもあります。
どのような方からの相談を受け付けているのですか?
当院の受診患者さんだけでなく、どなたからでも肝炎に関する相談を承ります。たとえば、C型またはB型肝炎ウイルス検査で「陽性」と知らされたものの、まだ医療機関を受診されていない方や、すでに医療機関に通われているものの、治療を始めようか迷われている方。また、ご家族からの相談も承ります。治療に関する内容など、ときには少し難しいお話もありますが、ご納得いただけるよう丁寧に説明することを心がけています。
未受診の方には肝臓専門医への受診を勧めています
具体的には、どのような相談が多いのでしょうか?
最近は新しい治療についてのお問い合わせが増えています。テレビやインターネットなどを通じて、飲み薬によるC型慢性肝炎の治療が可能になったことをお知りになり、詳しい治療内容や副作用についてのお問い合わせをいただくようになりました。また、専門医のもとで説明を受けたものの、もう一度、話が聞きたいといった理由でお電話をいただくこともあります。
このほか、C型慢性肝炎の治療費や医療費助成など経済的な問題に関する相談や、別の病気と同時に治療できるかといった医学的な質問をいただくこともあります。
まだ治療を受けられていない方には、どのようにアドバイスされるのですか?
まず肝炎治療の重要性についてしっかりと説明します。
C型肝炎ウイルス検査で陽性と知らされても、自覚症状がないために治療の必要はないと思われる方がいます。 しかし、「肝臓は沈黙の臓器」といわれますように、C型慢性肝炎は気づかないうちに肝硬変や肝がんへと進行してしまう病気なのです。自覚症状が現れてからでは、病状が進行して治療も難しくなりかねません。ご家族の方にさらなるご心配をおかけすることにもなるでしょう。そうなる前に肝臓専門医を受診するようにお勧めしています。
患者さんにとってもっとも身近な存在になりたい
相談を受けられる際に、どのようなことを心がけていらっしゃいますか?
なによりもまず、患者さんのお話にじっくり耳を傾けることを心がけています。患者さんが心の奥に持っていらっしゃる不安や疑問を少しでもお話いただくことで、一緒に解決方法を探すことができればと思います。
特に印象に残った出来事を教えてください。
C型肝炎ウイルスの検査で陽性と判定されて、どうすればいいか悩んでいらっしゃった方からのご相談です。肝臓専門医への受診をお勧めしたところ、すぐにC型慢性肝炎の治療を開始され、治療中も随時経過を知らせていただけました。そして治療が無事終了し、「治療を受けて本当によかった」とおっしゃる言葉に、私も「肝炎コーディネーターになってよかった」と心から思いました。
また最近、C型肝炎ウイルスを排除することができた方が、「これで孫の送り迎えを毎日できるよ」と嬉しそうに話されたことが強く印象に残っています。たとえ自覚症状はなくても、C型肝炎ウイルスに感染していることでどこか負担を感じられていたことが偲ばれる一言でした。こうして皆さんが前向きになるために、お手伝いさせていただけることをとても光栄に感じています。
どのような肝炎コーディネーターを目指されているのですか?
肝炎についての専門的な知識を持ちながら、どのようなことでも気兼ねなくご相談いただける、たとえるなら「家族の一員」のような存在でありたいと思っています。肝炎の治療には医師、看護師、薬剤師をはじめとしてさまざまな医療従事者が関わりますが、そのなかでもより患者さんにとって身近な存在として、さらなる支援に努めたいと考えています。